『ハウス』
“Hungry House Blues”
前回は、Steveの演技力/表現力に焦点を当て、"A Fool!"、"Monkey Magic"、"Magic Painting"について述べてみた。
今回は、大林宣彦監督『ハウス』(1977)のSteveを見ていこう。
映画『ハウス』
『ハウス』本編の中で、ゴダイゴが出てくるシーンがある。
主人公<オシャレ(池上季実子)>が、母親の姉、<羽臼香麗>おばちゃまの家へ向かうため、いわゆる「ハウスガールズ」と呼ばれる友人たちと、電車に乗り込む直前のシーンである。
ゴダイゴ登場
東京駅前-。
<オシャレ>を除くハウスガールズが待ち合わせをしている。
そこにゴダイゴが通りかかる。
ゴダイゴ登場シーンを観たい方はココからどうぞ。("Cherries Were Made for Eating"は4:03-。ゴダイゴ登場は4:56-。 *アップ主さま、ありがとうございます。)
【2011/10/28追記 『ハウス』動画削除確認】
実際に観た方が話が早いと思うが、とても短い場面なので見逃すことがあるかもしれない。
念のために説明しておこう。
構図は、画面のほぼ中央を空けて、ハウスガールズが3:2に分かれている。
内訳は、以下の通り。
左から、
<ガリ(松原愛)>(電話中)
<メロディー(田中エリ子)>
【空間】
<ファンタ(大場久美子)>
(ちなみに食いしん坊の<マック(佐藤美恵子)>は、ゴダイゴ登場直前に、売店で食料を買うという理由で集合場所から一時的に離れる。ゴダイゴ登場場面では、彼女は売店前の後ろ姿しか見えない。)
そこへ、画面向かって右手から、タケ+ミッキー+Tommyが登場。
タケ+ミッキー+Tommyは、中央の予め空いていた【空間】に、なぜか直行し、<メロディー>と<スウィート>の間に収まる。(知り合いという設定なのか、キミたちは? それとも段取りか?)
一方、Steve+アサノさんは、二人で仲良く談笑しながら、タケ+ミッキー+Tommy&ハウスガールズの後ろを、<さりげな~く>素通りしかけ……。
で、場面転換。東郷先生(尾崎紀世彦)のアパート。
東郷先生は、お尻がバケツに填り、ハウスガールズに同行できない旨、電話で応えている。
約15秒で、場面は東京駅前に戻る(5:16-)。
すると、なんと、ゴダイゴメンバーとハウスガールズが目下、交流中-。
談笑
この「ゴダイゴメンバー&ハウスガールズ交流場面」を、便宜上「ナンパ・シーン」と名付ける。
では、このナンパ・シーンでのSteveの演技に注目するため、人物配置と組み合わせを整理しておこう。
ハウスガールズは、前述した位置と同じ。
以下で説明する人物配置は、画面向かって左から右へ移行する。
まず、画面向かって左手にSteve+<クンフー>。
<クンフー>は公衆電話ボックス(←小さい方ね)に背をもたれて、Steveと話している。
<クンフー>が背をもたれている電話ボックスでは、<ガリ>が東郷先生に電話中。+タケ+<メロディー>。
<メロディー>と背中合わせになるようにミッキー。+Tommy+アサノさん。男子3人はじゃれ合いながら、<スウィート>+<ファンタ>との交流に大はしゃぎ。
(「ハウスガールズ」の名前と顔は、『吊り橋シーン』が分かりやすい。)
Steveを見よ!
で、とにかく、注目したいのはSteveだ。
……間違いない。
本気でナンパしている。
公衆電話ボックスの屋根に、ラフな感じで左手をカル~ク掛けて、<クンフー>に話しかけ……。
顔が近い!!!
神保美喜、じゃないや、<クンフー>の顔を、のぞき込んだりなんかしたりして……。
どこまでが大林監督の演技指導なんだろう。
いや、とにかく、ここでのSteveのナンパ演技は、本気に違いない。
と、誤解するほど、めちゃくちゃナチュラル。
Steveが、メンバーの中で一番難しい演技をしている&こなしていることは確かだ。
だから筆者は、一番端に立っているのに、Steveに目がいってしまう。
タケは?
一方、タケはゴダイゴのリードボーカルで、目立つべき立場にありながら、このナンパ・シーンでは、定位置についてから、ほとんど映っていない。いや、厳密に言えば、身体半分だけ映っている。
いや、映ってないと言っていいだろう。
タケは立ち位置が<メロディー>と部分的に重なっているため、顔は彼女の頭部で完全に隠され、身体の半分が彼女の後ろになっていて見えない。こういうの「カブってる」って言うんだな。
他のメンバーは全員しっかり顔も見え、全身映っているというのに!!
もう、なんでこれがOKテイクなんですか、大林監督!?(笑)
この次の場面では、「ハウスガールズ」を見送るために、ゴダイゴメンバーが一列に並び、カメラがパン(水平移動)する。だから、一応ゴダイゴ全員の顔が映るチャンスが一瞬だけどあるにはある。
でも、このナンパ・ シーンでは、タケの表情だけが全然見えない。タケ、ナンパもしてない。会話すらしていない。
とても残念だ。
タケのナンパ演技、見たかった……。
この人物配置と演技プランは、大林監督に、Steveの演技力が認められたからかもしれない。
……それか、うーん、タケが着ている襟がびろーんと伸びた(ように見える)緑色のTシャツと、ヘンな柄物(に見える)茶色っぽいシャツの組み合わせが原因か。
それとも、タケの演技自体に問題があったのか……。
タケの演技力は、『ハウス』から数年後の「モモ、ピーチピチ」で立証済だ。
アレですらアレなのに、コレでこんな小っ恥ずかしい小芝居がタケにできるわけがない。
だけど……、
もし、そうだとしても……、
もうちょっとしっかりタケを映してくれても……。
そういえば昔……(筆者は高校生になっていたかもしれない)、何の心の準備もないときに(CMってそういうものだが)、「モモ、ピーチピチ」に遭遇したことがあった。
その刹那、飲んでいたジュースを鮮やかに口から噴射し、犠牲者を出してしまった。
筆者には、このCMは未だにツボである。
あ、「モモ、ピーチピチ」話は、さておき。
Steveの演技力
Steveの演技力/表現力は、ある意味、Tommyやタケ以上かもしれない。
彼の魅力は、ベースと端整な容姿と声質だけではない。彼の豊かな表現力にも注目する価値がある。
“A Fool!"の上から目線も、“Monkey Magic"の「アチャーーーーッ!!!」の瞬発力も、多感な思春期の筆者に恐怖を植え付けた“Magic Painting”の笑い声も、Steveにしかできない。
だ・か・ら、彼がやっているのだ。
これらは、ミッキー/ジョニー野村氏が、Steveに潜在するベースプレイ以外の表現者としての才能を見抜き、引き出した結果だろう。
さて、『ハウス』サントラに収録されている“Hungry House Blues”(作詞・作曲・歌 Steve Fox)は、そんなSteveならではの表現力/演技力を存分に堪能できる。
HOUSE (ハウス)(映画)←Amazonでレンタル可。おお、Steve Fox!
“Hungry House Blues”録音時には、おそらく23歳。
こんなに渋くブルースを歌うのか……!!
『ハウス』は、映画本編もサントラも、Steveの演技/表現の巧みさを見せつける作品である。
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